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第14回 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2024年7月8日 ページID:042358

長崎市の附属機関(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第14回 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

令和6年5月14日(火曜日) 15時30分~16時30分

場所

長崎市役所5階 第3委員会室

議題

1. 審議事項 報告書(案)について
2. その他について

審議内容

【審議事項 報告書(案)について】

(会長)
審議事項1「報告書(案)について」を審議していただく。
各委員におかれては、本日の研究会の審議事項である、報告書(案)についてのとりまとめに向けて、事前協議にもご協力いただき感謝している。
その事前協議において、新たに「小児、思春期、若年成人におけるCT検査の放射線被曝による血液悪性腫瘍のリスク上昇」についても情報提供シートに基づき確認を行ったが、傍聴の皆様は初めてとなるので、私の方から概要をご説明する。
まず概要だが、これは直近の小児のCT検査に伴う血液悪性腫瘍のリスクが上昇したタイプの論文であり、Nature Medicineという世界の最高分類に属するジャーナルに載ったペーパーである。冒頭はあまりにも専門的かつタイトであるため、もし後程読みたいと申し出があれば事務局が用意するので、お申し出いただきたい。概要だけは最初に全文を読ませていただく。
100万人を超えるヨーロッパの子どもたちが毎年CTスキャンによる放射線被曝を受けている現状があるという心配がある。放射線被曝による血液腫瘍、これは白血病とリンパ腫に大きく分かれるが、発生リスクが上昇することは中等線量、これは100mSv程度とご理解いただきたい。それ以上のさらに高い高線量の被曝についてはすでに確立している。これは原爆をはじめとする、中線量高線量の被曝の論文がいくつかあり、ほぼ確立している。それからCTスキャンの低線量被曝によるリスクについては、まだ完全には分かっていない状況にある。本研究では、ヨーロッパの9ヶ国において948,174人の22歳以前に小児期から思春期の若年の大人で被曝した方を分析している。
CTスキャンを受けた部位のActive Bone Marrow骨髄にどれくらい当たったかという骨髄が血液で栄養を作っている一番大事な血液細胞の臓器であり、ここに造血幹細胞と言われる白血病とか色々な腫瘍になる元の細胞がある。そこの照射線量であり、ドースと言うが、それを身体の部位、患者の特徴、照射時間、CT技術パラメーターを考慮してドースを算定している。これは9ヶ国で統一的にやっている。
我々は積算線量とすべての血液腫瘍の関連を分析し、過剰相対リスク、略語でERRだが、ERRは1.96で被曝していない時を1とすると、1.96倍になっている。これが100mGy当たりの過剰相対リスクということになる。トータルで790例の血液腫瘍の患者がこのグループから発生している。
このERRはリンパ系腫瘍と骨髄系腫瘍で得られており、大体同等だということになる。
これらの結果から、現在のCTスキャンでは、平均線量8mGyの照射後12年間のあいだに10,000人の子どもから1~2名の血液腫瘍の発生が予測される計算ができたとしている。
我々の研究は小児科領域におけるCTスキャンの低線量域での照射による血液腫瘍のリスク増加の知見の拡大をもたらすとともに、CT検査基準の適正化を継続する必要があることに焦点を当てることができたことになる。
あとはCTスキャンの現状とか、医療被曝の現状とかのこれまでの疫学研究と公衆衛生学的低線量の考え方で、色々な交絡因子や放射線以外の白血病やリンパ腫の交絡因子コンファウンディングファクターと言うが、それについても分析を行っている。このコンファウンディングファクターが種々の低下に絡んでいるだろうということで、これまでの沢山の論文にクェスチョンマークが付けられていた。今回のこの論文はどうかというところである。
それから原爆被爆者における悪性腫瘍の過剰発生の線量が上がるとともに、直線的に発生率が上がるという仮説をもって、一般の公衆の衛生における放射線の危険性についてのコンセンサスが一応、今のところ国際的にはできている。これまでの低線量域での過剰発生が出るとなる閾値の線量がこれはどの論文も0となる閾値があるということだが、閾値というのはこの線量以上しか発生しないと言うことで、例えば原爆被爆者では100mSv、200mSv以上で発生するとよく言われるが、それ以下では発生しないと断定する論文が絶えない。どこまでも直線で0からずっと上がっていくにつれて発生率が上がっていくという仮説である。これはまだ実証されていないということがある。
それからEPI-CTというのは国際研究であり、ヨーロッパの主要な9ヶ国の放射線施設でCT検査を受けた人たちのその後であり、この研究では790人という非常に多数の子どもたちが急性白血病、急性リンパ性白血病あるいは急性骨髄性白血病と悪性リンパ腫という血液の悪性腫瘍にかかっておられたわけで、観察期間は7.8年である。観察期間が少し短いというところがあり、色々なデータの解釈の問題を推し量る部分があった。
それで一番大事な7だが、傍聴の方は7のリスク評価を見ていただきたいが、このElevated relative riskというRRですね。全ての血液腫瘍で10mGy以上被曝した人たちにおいてはRRが2.66倍。2倍以上に上がっているということが認められている。これはStrong dose response relationshipで、強いドースの関連があるとしている。そこで50mGyの発生が5mGyの発生率に対してどのくらい過剰に出ているかというのを見ているわけだが、リンパ性の腫瘍、骨髄系の腫瘍、いずれも2.01、2.02と上がっている。そして全体数も計算されるが、2倍とか2.5倍とかじゃなく、10万人当たりいったいどれくらい過剰に白血病、リンパ腫は出ているかということだが、これが17.7と。その他にいくつかの病気を、特定の病気のホジキン病とか非ホジキン病とかリンパ腫も現在は大きく言うと4種類くらいに分かれるので、それぞれみているが、それぞれで上昇している。このrelative riskが低い線量の範囲で徐々に直線的に上がっていくことは統計学的に有意であるというデータが示されており、もちろん白血病のleukemiaは直線的に上がっている。
それぞれで色々なコンファウンディングがあり、影響がないかということで、SESというのはSocio-economic Statusで、各家庭の経済状況とかであるが、従来から悪性腫瘍を生じる一つのファクターということになる。そういうSESというのを数値化しているが、SESは直接、発生率の上昇はみてなかったということである。唯一イギリスが一番最初にCTを子どもに照射するにあたり白血病やがんが増えているという論文を出した国だが、この国は一貫してUK1ヶ国の血液腫瘍がトータルで394例と多いが、その他の国々を合わせると396例でほぼ同数である。このUKのERRは2.69ですね。その他の国々が1.34であり2倍くらいの差がある。この原因は解明されていない。
それから色々なモディファイアですね。修飾因子が検討されたが、女性が時々グループによってはより高いリスクの場合にある。2倍~3倍以上上がるということもあり、これは最近一般的に注目されている点だが、部分的に認められている。
それから全部説明すると1時間くらい経ってしまうので、少し省略させていただくが、その他に色々なテストのSensitivity Analysisというが、例えば1年のラグタイムを置いて照射後1年間に出てきた症例は発病しかかっていたものを含めていた可能性があるという考え方でラグタイムというが、これを除いても影響はない。それから5年とかなり長期のラグタイムの症例を除くと、半分くらいに発生率が減少する。リンパ系には特に半数、それから骨髄系には3分の2まで低下している。しかしその後、5年および10年のフォローアップ症例を除いても、ERRが消失する。ラグタイムを除いていったら、その症例が全部消えて、1年後に無かったことにはなっていない。いずれも消失することはないということである。したがってここでの解釈は、著者らの解釈は完全に自然発生の白血病だけみているわけじゃないことを言っている。
それからCTの検査が普通は1回が多いが、2回、3回と繰り返しており、多分何かの理由があって繰り返していると思うが、そうするとRRがやっぱり1回だけのグループと比べると上がる。そういう傾向が43%とかいわゆる骨髄系の腫瘍とリンパ系の腫瘍でそれぞれ認められている。
それからmeanだが、meanというのは平均のあるいは中央値というが、骨髄の線量は15.6mGyで、それと10.7mGyであったと書かれている。15.6mGyはこの7万6000人であるから、症例の過去十数年の間に、世界的にCTは小児で危険だという考え方がかなり普及してきており、CT検査1回で照射する量。例えばフィルムで換算するような考え方でいきますと、フィルムの枚数を沢山撮らない。それで線量を少なくするという試みがされている国が多くなってきて、小児科領域では新生児で特に大きく被曝線量が減少してきている。
それからドースを色々詳細に検討している。
15番目のdiscussionはかなり専門的であり、これは読んでいただきたいと思が、一番下の5年ラグタイムではリスク上昇は約半減したと書いてある。ドースの最高値を1%、2%、5%。最高値から高い方のグループからそれだけ除いて、残りの症例でリスク評価をしてもリスクはやっぱり上昇していたというのを確認している。だから高線量にたまたまなった、グループの影響は全体のデータに寄与しているということは否定していると書いてある。
それからもう一つ大事なReverse causationという考え方があり、これは因果の逆転という考え方だが、照射を受けてから1年、5年、10年と経っていくうちに何らかの病気が出てきて、これが原因で悪性リンパ腫とか白血病が出てくるという考え方で、CTの照射に関係のある、こういう潜在的な、潜在していた、隠れていた病気が出てきた結果をこの研究はみているという疑念が常に付きまとうが、このReverse causation 、因果の逆転は著者らはなかったと考えている。
著者らが挙げているこの研究の限界、limitationというのが、つらつらと書いてあるがこれは例えば、ダウン症候群とか先天性の病気で白血病とか悪性リンパ腫などを起こしやすい病気がいくつかある。そういうものを今度の98万人の検査を受けた子どもたち全てに事前に診断をするということは適わなかったと書いてある。だからこの辺りは完璧な調査にはなっていないということである。病院の記録をチェックすることとしているが、ここは完璧ではなかったというように書いてある。その他色々なコンファウンディングファクターを除く努力をされているが、ここにこの論文の弱点があったということとなっている。我々の過剰発生リスクというのは、最近発表されており、別のグループの21歳未満の小児白血病のデータをいくつかの研究をまとめて解析してあるが、これが0.84から4.66の間にありまして、それほど大きな違いは無かったということを書いている。
それから彼らは非常に少ない発生数であり、1万人で12年間のあいだにどのくらい白血病や悪性リンパ腫などが出てきているかということに関しては、1.4例だという試算をしている。1万人で1.4人ですから、かなり低い発生率になる。ということでこの論文の解説を終わるが、後ほどこの論文に戻って、委員の先生方のご意見を紹介する。
では、次に進ませていただく。皆さんのお手元には報告書が配られている。報告書は「1 設置の経緯・目的」「2 検討の進め方」とあるが、この辺りは事務局から説明していただく。 

(事務局)
報告書(案)の「1 設置の経緯・目的」には、原子爆弾の放射線による人体への影響に関する研究事項については、非常に専門性が高い内容であり、原爆被爆者援護行政の施策の推進につながる研究であるか否かの判断は、私ども行政のみでは困難であることから、医学、物理学及び疫学の専門家で構成する、こちら「放射線影響研究会」を設置し、専門的見地からの情報収集や意見交換を行ってきた旨を記載している。
次に、「2 検討の進め方」には、特に、被爆地域の拡大是正及び放射線被曝の遺伝影響に関係がある知見に関連がある研究論文等について、委員に情報提供していただき、自らの専門領域の知識に基づきまして、情報の内容および科学的知見について意見を述べるとともに、必要があると認めるときは、外部の研究者を参考人として招聘し、意見聴取したことを記載している。
以上が「設置の経緯・目的」及び「検討の進め方」についての概要である。

(会長)
それでは委員からの説明として3以下の説明をさせていただく。
『「被爆地域の拡大是正」に関係がある知見』でまずアであるが、「被爆未指定地域住民の推定被曝線量に関する知見」これは従来、過去の研究会でも発表しているので皆さん耳にされたことがあると思うが、もう一度読み上げる。長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告、これは岡島報告のことですが、1970年代に行っており、間接的なプルトニウムの量から当時原爆爆発後にあったセシウムの量を推定して、線量を推定するという方式だが、少し複雑である。この妥当性の検証を中心に最初の検討をやったが、被爆後早期に測定されたこの他の理化学研究所仁科研究グループである。それから原爆後9月に入ってきたアメリカ軍の陸軍のマンハッタン調査団である。それから海軍の医学研究所による調査。これはガイガー計数機のようなものをもって、広く長崎県の南部を測定して回っているが、島原半島まで。そういうものと比較していくということをやっている。被爆地拡大地域は西山の水源地より東の方であり、その地域を中心に長崎の被爆地を取り巻くような形で12キロメートルくらいまでであるが、それは皆さんよくご存じだと思うが、この地域拡大のこれらの推定線量データについてDS86という1986年に提唱された放射線影響研究所がABCCである。その線量の推定方法で計算した値が被爆地拡大地域の中の一番高いところで25mSv。それからTECDOC1162という非常に難しい略語の計算方法は、これはIAEAという国際機関があるが、そこで採用している計算値は23.5mSvということで、それほど大きな違いは無いが、岡島報告と同程度の20mSv近傍の最大推定線量に各街・町が76ヶ所プルトニウムの濃度を調べてあるが、だいたい20mSv、25mSv以下に入って20mSv前後に分布するという感じである。その次は省略する。そしてもう少しこの線量推定を確実なものかを確認するために、広島大学の物理学教授の静間教授にも独自に推定していただいたが、岡島報告の推定値とほぼ同等の推定値を計算されていたので、この第一の一番重要な被爆地拡大地域の住民の方がそこに何年も住んでいた場合に被曝した線量というのは、間接的な推定になるが、20mSv前後だということはほぼ間違いないだろうということになる。
そうなるとここで出てくる仮説や課題は広島原爆や長崎原爆で言われている100mSv以上でないとがんが発生していない、白血病が発生していないということと比較しますと、やっぱり低いですから本当に人体影響があるかどうかは、そこから白血病やがんが出るのかとかそういうことが直ちに問題になるわけではないが、実際にこの被爆地拡大地域から色々な病気が出たという統計ではなくて、アンケート調査してそういう病気が出ていることは確認されているが、いわゆる何千人、1万人とかで、1年間に何例出たのか、そういう統計データを過去1回もしていない。
それでは我々の委員会が非常に注目してやってきた、低線量被曝の放射線被曝の健康影響があるのかというのを、過去十年以上出る論文は全て検討してきた。まず最初は、イギリスから出てきたものは、後でお話するが、戦後すぐ始まった原子力発電所の建設であり、それが稼働してからである。フランス・英国・米国3ヶ国の原子力施設労働者の後方視的国際研究、INWORKSと略語で呼ばれているが、これを検討するグループが出てきており、これは10年ごとくらいに何回かやっていて、長期間にわたる低線量被曝によるがん死亡のリスクの上昇が過去の論文において報告されてきた。2017年に発表された研究では300mSv以下の低線量域の線量反応が有意だとする結論は訂正されている。しかし低線量域のERRは全線量域のERRと同等であることが確認されており、低線量域の線量反応が全くないと結論づけるのも難しいと論文では述べている。
次の丸の米国学士院の、アメリカのアカデミーであり、「低線量被曝による健康リスクに関する委員会」というのが1997年の報告書に妊婦の骨盤検査、エックス線検査であり、これはイギリスのオックスフォードで主にやられている研究である。全イギリスの妊婦の骨盤のエックス線検査を受けた方々から生まれた子どもたちが、その後、がんや白血病になるかという研究だが、リスクが上昇したとするオックスフォード大学のメアリー・スチュアート教授の論文の研究があり、この研究では10~20mSvのかなり低い線量での胎内被曝が小児がんのリスクを押し上げるということであったが、2008年の「小児および胎児の放射線被曝によるがんリスク」の研究が出されており、胎内被曝者で200mSv以下の低線量領域における固形がんの有意な上昇は観察されていない。まだフォローアップが必要だということである。このようにかなり低い10~20mSvと200mSv以下は観察されずという知見であり、解離するのが現在の放射線研究の低線量領域の大問題である。その解決が今、何とか図られようとしている。
それから小児のCTスキャンによってがん及び白血病のリスクが上がるということは、イギリスを皮切りにオーストリア・フランス・オランダ・ドイツとかで、次々に発表されており、どの研究もある程度の上昇があるということであった。今回ヨーロッパ、EUの9ヶ国95万人を対象とした多国籍コホート研究の結果において、がん及び白血病のリスクの上昇が報告されている。本研究ではSMRというその標準化死亡比という数値が、被曝線量との関係が不明なことや調査対象集団そのものの死亡率が高いこと、またチェルノブイリの小児甲状腺がんでは被曝後5年以降に発症しており、原爆被爆者の固形がんは10年以上経過してから発症しているのに対して、最初に説明した論文ではCT検査後5年以内でも発症リスクが上昇して、5年以降ではむしろ低下していることから、別の要因の可能性も考慮する必要がある。併せてこれらの最新のこれまでの最大級の国際疫学研究、これは略語でEPI-CTと言うが、血液悪性腫瘍のリスクが報告されている。しかしながら、放射線被曝の特徴として被曝時年齢が放射線の感受性が強い低年齢層がよりリスクが高くなるのに対して、この研究では逆の結果となっており、原爆被爆者の白血病の発症は被爆後2~5年で上昇し、5~10年でピークになるのに対して逆の結果になっていること、さらにCT検査を行った理由が不明であるということから、因果の逆転が疑われており、はっきりしておらず否定もできないということである。そういうことでこの論文を含めてのことである、もう一つ低線量域の人体影響に対して確固たる国際機関が集まって、あるいはこの範囲内は低線量の影響があるということがきっちり決まるようなものは未だないのである。
それから小児期に電離放射線により被曝した9つのコホートで、色々な研究がされている。世界中で。急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群及び急性リンパ性白血病においては、100mSv以下の低線量被曝で有意なリスクの上昇が認められている。慢性骨髄性白血病では認められていないが、この論文では1915年から1979年とかなり年代がばらついているところのコホートであり、平均曝露年齢が0.11歳という非常に小さい乳児から18.16歳までと思春期以降と年齢幅が広くて、被曝した放射線の種類も違うことから、線量評価の正確性についてはなお慎重に判断する必要があるだろうと言われている。
次のページになるが、もう一つ重要な論文が最近出ている。これは先ほどのNature Medicineの論文の2年前に韓国から出ており、アメリカのJAMAという内科学会の最高の水準と言われているジャーナルに出た。アクセプト言わば受理された論文だが、韓国の若年者のCT被曝のリスク1200万人の大規模なコホート研究である。この1200万人というのはこれまでの研究の最高値であり、これは何故できるかというと韓国は個人ナンバーがもう90%近く確立しており、そのために全ての医療データが保存されている。コンピュータで管理しており、CT検査を受けた人を選ぼうと思うと、数千万人の中から1200万人が出てくることになっている。そういうものを使って、その後にどのくらいの方が白血病とかがんになったかというデータが入っており、それが検討できるということで非常に有効な疫学研究になってきている。これは我が国の現状と比較すると我が国は足元にも及ばない状況であり、日本ではこういう検査をやろうと思えばできるはずだが、やっていない。マイナンバーの普及が十分でないということである。それでCT検査の1年、2年、5年というがん発生のこれもRelative riskになるが、CT検査後には低下していくはずだが一定認められていて、5年目以降にも依然として上昇している。2年目を標準として比較した場合には、有意差が認められるため、研究結果の信頼性が一定保たれていると著者らは判断して論文をJAMAに出して受理されている。これに対する委員の1人からの批判は、高線量被曝のチェルノブイリの小児甲状腺がんは、5年目以降に上昇が認められており、これより低い線量であるCT検査の被曝によるがんの潜伏期間として標準の2年は短くて、さらにCT検査を実施した理由が不明ということである。因果の逆転も否定できないとするこのデータはやっぱり信用できないという意見の委員がおられた。CT検査の線量がこの研究では測定されておらず、先ほどのNature Medicineのように非常に詳細に線量を推定していたが、この韓国の論文は1回2回という回数だけある。そういう意味で少しクオリティが落ちるということは否めないが、15mSvとか最近CT検査1回で使用される線量というのはかかっている集団であることは間違いないと思う。慎重な判断を必要となるが、一定の結果が出されていると思う。
次にCTから離れ、内部被曝の問題を検討した。これには長崎原爆がプルトニウムによる内部被曝があることから、それの影響があるかないかということは非常に重要な課題なるが、これまで全く未解決である。長崎原爆被爆者におけるプルトニウムによる内部被曝について、長崎大学の原爆後障害医療研究所の七條和子助教を招聘して、研究結果について説明を受けた。これは皆さんも傍聴したかと記憶しているが、この研究は原爆で死亡した解剖例を、その標本の中で臓器の中に放出されるアルファ線をプルトニウムは出している。アルファ線は電気と同じようなものだが、飛跡をオートラジオグラフィーという方法で、組織の中に細胞が沢山びっしり詰まっている組織の中にアルファ粒子が沈着していると、そこから3ヶ月くらいの間にプルトニウムのアルファ線が出て、そこに被せた写真のフィルムである。それが感光するとそれを現像すると数ミリの飛跡が、黒い線が出てくるということで、1キロメートル以内で被爆した7例の方々で、プルトニウム239という物質からのアルファ線が確認されており、ここで内部被曝が長崎原爆被爆者で初めて存在したという内容の論文となった。近距離ではあるが人体からプルトニウムが確認された大変貴重な症例である。これが被爆地拡大とどう関係するか全くわからないが、先ほど最初に述べたように、被爆地拡大地域の土壌から長崎原爆の原料であるプルトニウムが降り注いでいる。それが70センチメートルくらいの深さの土壌をボーリングすると発見されているわけで、被爆後に同地域の住民においてこのプルトニウムが空から降ってくるのを吸ったり、あるいはその後に雲に紛れて降ってきたり、その後降り注いだりして野菜を汚染させたり、外部に、屋外にある水源で、水を飲まれたというようなことで、色々なことで内部被曝を受けるような状況にあったかもしれない。こういうものをまだ研究できるかどうか分からないが、やってみる必要があると思っている。
次に、我々の研究の非常に大きなテーマで遺伝的影響である。二世の方に関係のある知見を探っている。放射線影響研究所においても、被爆二世に対して行われてきた種々の検査。これは6種くらいあるが、数万人。5、6万人で沢山の方が調べられており、省略するが、色々な染色体異常も含めてDNA調査が行われているが、DNAというのは色々な遺伝子、たんぱく質の遺伝子をみてみるということだが、それからがんの罹患率である発生率。現在のところ被爆二世における遺伝的影響は認められていないと。これが被爆二世の方々にとっては非常に大きな壁になっているということはもちろんご承知の通りである。
広島大学の鎌田七男教授の論文が出まして、「広島原爆被爆者の子どもにおける白血病発生について」という論文だが、通常の白血病は乳幼児期にピークになるのに対し、被爆二世では発症年齢分布が広くて、両親被爆群では、両親とも被爆している群では発症は有意に高いというデータになっている。それから被爆二世において白血病の発症が多いのではないかと示唆されているという論文だったが、この指摘は重要だが、被爆者集団に直接被爆群とともに高い比率で入市被爆者群が1日後、2日後、8日後とかが多くて、鎌田先生の論文には、被爆者何人中何人に、二世の何人に白血病が起こったという統計値の計算ができない。これは鎌田先生ご自身も認められているが、ここで断定できないと。これが断定できるような統計処理ができるようにするには、もう少し直接被爆群の方々の症例を増やしていかないといけないという大きな壁がある。今のところこの後継論文の後継の研究はなされていない。
それからもう一つ最近特質すべき論文が出ました。それが長崎大学の原爆後障害医療研究所グループにおいて実施された近距離で被爆した父親と相応の高い線量の被曝者である。非被爆者の母親は被爆していない。その子どもは二世であり、この3人の組み合わせをトリオというが、このトリオの3組それぞれのDNAお父さん、子ども、お母さんから採って、新規発生した突然変異だが、放射線誘発性があるかもしれないと思われる原因を全ゲノム解析法という1人何十万円と掛かる方法で調べている。おそらく1000万以上の研究費が掛かると思うが、この研究では親子間における変異遺伝子の伝播の事実が今回は認められていない。だからここでも遺伝の影響は証明できていない。あくまでも3例、3組であるから、何組やったらもし遺伝していれば検出できるかというのは、これは全く未知である。放影研はこの研究に注目しまして、色々検討して500例、500トリオ。500組くらいやれば検出できるのではないかという推定が出ておりまして、また500組の実際のトリオを放影研のこれまでの研究対象者の中から、おそらく説明して研究に参加するという同意を得た方が500組出たと思うが、今後数年間かけてこの研究を完成させると、放影研の公式説明ではおそらく、この研究は二世研究の最後の研究になるのではないかと、データが出ることで二世に遺伝的影響があるかどうかの結論を導くことが可能になるのではないかとの発表をしている。
本研究会のまとめに入るが、被爆未指定地域住民の推定被曝線量については、各種の推定線量データから被爆拡大地域の一部地域において、20mSv近傍を超える低線量被曝があったことが推定される。これは何度も繰り返しになるので、詳しくリピートしない。
2番目、低線量被曝の健康影響についてINWORKSや米国学士院の1997年の報告書のオックスフォード大学のスチュアート教授のグループの低線量被曝の研究プラス小児のCTスキャンによるがん及び白血病リスクにおける国際疫学研究、EPI-CT。そういうものを収集し検討した。
最近になりこのような低線量の人体影響を示唆するような研究結果も複数出てきてはいるものの、国や人種の多様性、自然放射線というものもあるので、中国とかインドとかで、そういうところでは年間に何十mSvとか、あるいは生涯のうちに何百mSvとか受ける地域があり、そういうところでがんが多重発生しているかというデータは国際的には未だ無いわけである。それから被曝線量による健康影響を明らかにするような研究は出ていない。10mSv~100mSv未満の低い線量領域の人体影響については、まだ国際的なコンセンサスが得られるようなレベルにはなっていない。しかし今回いくつかの論文が1000万人とか、前後の症例検討とかで出てきており、そういうものは今後、国際機関でしっかり議論されていくだろうと思う。私自身はかなり有力な低線量の影響が分かる論文が出てきたのではないかということで、この10mSv~100mSv未満の低線量被曝の人体影響はもう少し進展していくのではないかと思っている。
プルトニウムの内部被曝によって、今回の症例においてはこのような近距離被爆者で、わずかなプルトニウムの人体内での沈着は人体に大きながんを発生させるには、ちょっと線量が少なすぎるということである。これにも一つの壁があり、内部被曝を証明する方法としては非常に優れていると思うが、人体影響が外からの影響と加えて研究できればいいが、そこまで行くのにはちょっと距離があるかなと思われるところもある。
次のページ。最後のぽつだが、放射線被曝の遺伝影響についてだが、放射線影響研究所における被爆二世における白血病の増加の論文を解析しているが、科学的にはやっぱり十分な根拠を欠いており、今後さらに研究を続ける必要がある。そして先ほど説明したトリオだが、被爆者の両親と子ども、この組み合わせで全ゲノムの解析を行うが、7万5000くらいある我々の遺伝子を全てのDNAを構成単位のところから、1から全部、全てから分析するということで、全ゲノム解析から結論が得られるかもしれないというところに達したのは非常に大きな進歩ではないかと思う。
それでは終わりに4項目を述べたいと思う。本研究会は長崎市の附属機関として、医学、物理学、疫学の専門家で構成され、平成25年の発足から今日まで約10年半にわたり、国内外の放射線による人体影響に関する最新の研究内容等をいち早く精査し、時には外部の有識者を招聘して検討を行うなど、精力的な活動を行い、議論を積み重ねてきたところである。
これまでの説明でご理解いただいたと思うが、これまで取り扱ってきた研究内容等においては、低線量被曝の人体影響を認めるグローバルスタンダード。例えば国連の機関とかのICRPとか、そういうところがグローバルスタンダードとなるような10~100mSv以下で、特に小児とかで、そういうグローバルスタンダードとなる確固たる知見は、まだ見出せていない。近年、EU9ヶ国の共同研究であるEPI-CTスタディのような低線量被曝の人体影響を示唆するような国際的な論文等が出てきている。私はその論文を高く評価しており、その動向を継続的に国・県・市においては注視していっていただきたいと思う。
将来的にも、ゲノム解析等による先進的な研究がさらに進み、原子爆弾の放射線被曝による健康影響が解明され、遺伝的影響。これは母子に証明されると被爆二世にのみならず、被爆三世、四世と人類そのものが、遺伝的変異の継続という大問題が、人類学的な大問題が出てくるので、ここは徹底的に研究していただきたいと思っている。
国におかれても、特に「低線量被曝の健康影響」に関して、これは被爆地拡大地域の皆さま方には直結する価値の高い問題なわけだが、今後とも新たな論文をはじめ数多くの研究内容等が国内外で発表されてくるものと思われるので、情報収集に努め、知見を深めていただくようお願いしたい。
会長のあとがきとして、これはちょっと私見も入ってくるが、本研究会の会長としてこの10年間の各委員の専門的な知識に基づく新たな知見に対する科学的評価を行うことにあらためて感謝の意を表明したい。原爆行政の現時点での最大の課題である、長崎市の被爆未指定地域住民における100mSv未満の健康影響の有無についての科学的知見が近年増加してきており、特にヨーロッパ9ヶ国の先ほどから説明している、EPI-CTスタディの造血器腫瘍の解析結果は94万例というこれまでの韓国における1200万人の研究に次ぐ多数例の疫学研究であり、10~50mGyと100mGy以下の50mGy未満の低線量域におけるERRの有意な直線的上昇を彼らは確認しているので、低線量研究における大きな成果だと私は考えている。被爆地拡大の行政的判断において参考にしていただきたいと思う。長崎の原爆被爆者医療および未指定地域の住民の被爆認定行政における国、県、市における今後の取り組みにも、このような科学的知見が役立つことを心から願っている。
最後に委員の名簿が提示してあるが、D委員とE委員は残念ながら期間中に定年を迎えるなど、この研究会から外れておられる。彼らにも厚く御礼申し上げたいと思う。
A委員が私のあとがきに対して、このあとがきでは自分は納得できないとのおっしゃっていて、こういうものがあとがきであるべきだというご意見があるので、今から発表していただきたいと思う。

(A委員)
今、会長にご報告いただいたが、非常によくまとまったまとめではないかなと思っている。会長はじめ皆様方の10年以上の議論の賜物ではないかと思っている。
その上で、会長が会長あとがきという中で私見も入っていると言われているが、私はその点がちょっと気になったので、具体的に言うとこの第二段落である。会長のあとがきの中で、「EPI-CTスタディと韓国における疫学研究が10~50mGy未満の低線量におけるリスクの有意な直線的上昇が確認できたことは低線量研究において大きな成果である」というように書かれているところで、ここはこれまでも議論があったところだが、実際におわりにの第二段落のところで「低線量被曝の人体影響を認めるグローバルスタンダードとなり得る確固たる知見は見出すことは困難であった」というところがあり、その部分を勘案していただければなというように思っている。ということで、私がこういうようにしたらどうだろうということで、私自身の案というのを書いている。ですから第二段落のところに今言ったところの部分を入れてみたというのがこの案になる。
ただこれは今、会長が言われたように会長のあとがきであり、会長の私見であるので、最終的には会長の判断に委ねるものではないかと思っているが、これまでの議論。そしてその前段のまとめで、色々なまとめを勘案し、私は自分で案を作りました。そちらの方がより反映しているかなと思い、こういう提案をさせていただいた。 

(会長)
A委員の考えは非常に理解しているつもりである。この研究の目的からして被爆地拡大の方々の課題となっている低線量の影響というのは、あまり長く待てない。そういう意味では現在ある科学的な知見の中で、より拡大地域の人々の低線量でも病気が起こりうる可能性が一応推定できるような知見は、私は参考にしていくべきじゃないかと思っている。もちろんこれらを基にして将来的には世界レベルのグローバルスタンダードでは低線量で行くと思う。A委員の言われる通りだが、しかしそれを待っていてもおそらく問題の解決には繋がらないわけで、やはり科学的根拠が少しでもあれば採用していくということでの私の考えを最後に述べている。
以上で本日の説明会を、私の座長としての説明を終わりたいと思うが、あとは事務局にお願いする。
A委員ともう一人B委員にもご出席いただいておりまして、B委員、線量の推定の問題から始まって最初から最後までご参加いただき大変ありがとうございました。B委員からもご意見が出ていますので、お話しいただきたい。 

(B委員)
11年間本当にお疲れ様でした。
11年というのは随分昔になるが、振り返ってみると、当初、線量評価を担当させていただいた。何かその後変化があったのかということだが、実は線量評価上の新しいデータは出ていない。ICRPの国際放射線防護委員会の新しい勧告を取り扱うにあたって、色々な新しい数値が計算されて出版されていて、数値的にはかなり以前よりも精緻化されているが、大きく変わってこないということである。今現在線量評価をもう一度やったとしても、大きな数値の変化はないだろうということが分かってきている。
放射能以外のメルクマールを使っての線量評価については、特に黒い雨地域の特定ができないかということで、広島でスタートしたが、そういうことが可能なのかどうかという、そういう議論の段階である。そういった意味で、この11年間、私が担当したところから大きく変わってはいない。
疫学的な見地から言うと、今日、紹介されたけれども大規模な調査ということでINWORKSとそれからEPI-CTスタディである。この2つは11年前には無かったということで、大きな新たな知見が得られたと思うが、一方は慢性の全身被曝。一方は急性の局所被曝ということで被曝の様式も違うので、その辺りも注意する必要があるが、データは一応出てきている。国際的なコンセンサスにはこのデータは至っていないし、線量影響をこれで決まりだというところまでは、まだ至っていないと私は思うし、まだ高自然放射線地域の問題等々があるので、11年前と変わらないのではないかと思っている。
基礎生物学的にも放射線発がんのメカニズムというのはまだよく、相変わらず完全にこうだというものはない。色々なメカニズムが分かってきているが、それで全てのがんを説明できるものではないが、そんな中でゲノム解析が、特に被爆二世のメカニズム解析ということが進んできたということが、この10年間で全くそれまで無かったものだと思う。
そういう意味で振り返ってみると、色々な新しいデータが出たが、まだブレイクスルーというようなところまでは行っていなくて、今ここでもし結論を出すとするならば、やはりこれが科学の限界で、それが故にいくつかの社会的な問題を解決するための、決定打となるような科学的な事実に至っていないと思う。ここが限界だと今は示しているというような状況かと感じている。
会長のあとがきに関しましては、これは会長のお考えということですので、それを尊重したいと思っている。特にEPI-CTが画期的な成果かどうかといったことに関しては、私は先ほど申し上げましたけれども、そんなまだコンセンサスにまで至ってないかな、それを一つ取り上げるのはどうかなと私個人的には思うが、それはあくまで個人的な意見である。全体的なまとめは先ほど申しあげた通りである。 

(会長)
あとC委員もご発言いただければありがたい。 

(C委員)
今、A委員とB委員から出たように、大体同じような意見である。本当にこの報告書は良くまとめられたなと、この11年間の私たちの苦労が綺麗にまとめられている。
先ほどB委員の発言のように、色々な知見が出たが、疫学の限界。要するに疫学というのは人間を相手に行う調査・解析なので、どうしても実験はできない。だから色々な要因が入ってきて、綺麗な結果が出せないというのが、それが科学の限界だと思う。ですから、大きい論文が、いくつか出ているが、それがグローバルスタンダードと言えるようなものではないということが、私もそう思っている。 

(会長)
事務局から何かあれば、お伝えしていただきたい。

議題2 その他について

(事務局)
今後のスケジュール案について説明
・取りまとめた報告書については、速やかに会長の方より市長へ報告予定
・7月くらいまでを目途に上京し、厚生労働省へ報告書を提出する予定


以上

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