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第23回文学講座(H25.6.1)
題目 『海と毒薬』の問題――東京裁判と人権――
講師 徳永達哉氏(熊本大学准教授)
平成25年6月1日(土曜日)、梅雨の長雨が降るなか、第23回文学講座を開催いたしました。
今回は、熊本大学の徳永達哉先生を講師に、案内役に平成25年3月に当館を退職された池田静香氏をお迎えしました。
憲法学がご専門の徳永先生は「『海と毒薬』の問題――東京裁判と人権――」と題し、戦前から第二次世界大戦後にかけての戦争犯罪と人権に関する法的概念の変遷を説明され、『海と毒薬』発表当時の戦争犯罪人に対する日本の法規範が、戦後人権と国民主権の問題と関わる中で新しい戦争犯罪の定義へ如何に変化していったかについて、ご解説いただきました。そしてその後は、『海と毒薬』の主人公・勝呂により投げかけられた「罪」とは何かという問題を、さまざまな法規をもとに憲法学の立場からお話いただきました。
また、講座の最後には池田氏との対談で、戦後の新しい法秩序の中で個人が集団の中で生きていく時に、「流されない」生き方をどのように模索していくのか、またその難しさについてお話いただきました。
『海と毒薬』が投げかける問題を、今日の社会に続く私たちが考えるべき課題として、作品をいま一度思い返しながら考える時間となりました。人権、国民主権、生命倫理、これらは今日の私たちからも遠くない問題であるという認識に立って、改めて作品を読み直す機会を与えていただきました。