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第26回文学講座(H26.6.28)
題目 遠藤周作の歴史小説
~<歴史其儘(そのまま)>と <歴史離れ>
講師 長濱拓磨氏(京都外国語大学)
平成26年6月28日(土曜日)、講師に京都外国語大学の長濱拓磨氏をお招きして文学講座を開催しました。
講座の導入では、まず遠藤の歴史小説の大きな流れ、諸作品の傾向について、一連の歴史小説を分かりやすく分類された表をもとに解説されました。
本題では、遠藤が複数の作品で主人公として描いた歴史上の人物「ペトロ・カスイ岐部」を軸に、遠藤の歴史小説における<歴史離れ>について論じられました。
『沈黙』の主人公ロドリゴのモデルはイタリア人司祭のジョゼフ・キャラだと遠藤自身が語っているように、『沈黙』とカスイ岐部との関係性は一見すると見えてきません。しかし、氏は歴史事実に拠った<歴史其儘>と創作(フィクション)としての<歴史離れ>の部分を比較すると見えてくる、『沈黙』におけるカスイ岐部の痕跡を指摘し、『沈黙』の<歴史離れ>にはカスイ岐部との関連性を考えることができる、と問題提起をなされました。
例えば、小説では西勝寺でロドリゴがフェレイラに棄教をすすめられる場面があります。小説の時間軸としては一六三九年九月となり、ここで二人は「日本沼地論」を議論します。一方、歴史の側では、一六三九年にフェレイラは江戸評定所で捕縛されたカスイ岐部と対面し、棄教をすすめるもカスイ岐部から激しい非難を受けたとされています。
この場面一つからも、歴史事実と小説との重なりのなかに、カスイ岐部の存在が小説のロドリゴの造形に関わっていると考えられるのではないかと指摘されました。
本講座では、カスイ岐部との関わりから『沈黙』の<歴史離れ>を考えるという新しい視点によって、受講者にはそれぞれに『沈黙』を再考する機会となりました。