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第7回文学講座(H20.11.23)
題目 「母なるもの」を読む
講師 下野孝文氏(長崎県立大学)
平成20年11月23日、長崎で執り行われた列福式の前日に講座を開催しました。
下野先生は、「母なるもの」に描かれた二つのモチーフ((1)あたかも作家・遠藤周作の分身かのように創られた主人公・「私」と母の関係(2)長崎の「かくれ切支丹」)について、それぞれ「事実」と「虚構」の関係を整理し、提示されました。
例えば、年譜上遠藤が母の死に見舞われるのは渡仏留学から帰国した昭和28年12月(30歳)の時のことですが、創作にあたって幼年時代の主人公・「私」が母の死に目に会えなかったというコンプレックスを抱いていたという状況を設定することで、小説における現在の「私」が長崎のかくれ切支丹を見て、そこに「哀しみの聖母(=「母なるもの」)」に共感を覚えていくという道筋が導かれ、読者により切実に「母の愛」というものが日本人にはあるんだということを伝えてくるという創作における物語化(「虚構化」)する操作の意図と効果を解説していただきました。